……数時間前。終電は逃しませんよと、傑に言い放っていた私がみたら、呆れるだろう。
Barを後にした足で、手を繋いだままホテル街に向かい、ろくに部屋も選ばずに、2人きりの空間を求める私達を。
「……っ!」
ガチャン、と、鍵が閉まったのかさえ確かめる間もないまま、傑の熱い唇が私をたべた。
アルコールで潤ったやわらかな唇は、息をする間もなく、私のそれと溶け合うようにくっついてきて、舌まで触れ合えば、気持ちの良さに溺れてしまいそうになる。
持っていられなくなった。
百合からもらった、アマリリスの花束。
あがっていく息に煽られるように、背中のジッパーが下されて、できていくドレスと私との隙間を、見逃さない傑の指がさらって。
上から露わになっていく私をたどるように、熱い吐息まじりの唇が、鎖骨から、胸元へ。
「んっ……」
あえてブラのホックを外さずに、指でめくって中央を奪ってしまう、傑の濡れた感触に、私はたまら
ず、体をよじる。
そんな私の反応に口の端をあげた傑は、軽々しく私を抱えて、眠るだけには大きく思える、雲のようにふかふかなベッドの上へと導いた。
よわいところを見つけられていく、快楽の波なかで、綺麗だとも、好きだとも言われずに、ただ、求めてくるだけの唇と指先を受け止めながら。
私達が、ホントウに満たしたいものは何なのかと、ふと思う。
さみしさを秘めた顔はさせないという言葉に、心に存在していた底なしの隙間を埋めにきたはずだったのに。
大して愛言葉すら交わさずに、"渇き" だけを満たそうとする行為に、脳裏に浮かんでしまうのは、陽人とのあまい時間。
『もう、充分わかったから』と。言わずにはいらないほど注がれていた愛情を。
『だーめ、全然足りない』と。至るところにつけられたキスマークと、教えてくれた好きの数を。
愛に満ちていた時間を。
思い出さずに、いられるはずがなかった。