「……譲れなかったんだ、自分を」



表情だけで私の話しを受け止めてくれていた傑が、あえて音にした言葉に頷いて、モヒートの入ったグラスに手を添える。



「そこを譲ったら、私じゃなくなると思ったから」



…あの日、確固として自分の中に聳え立つ感情を、見ないフリなどできずに、覚悟の詰まったプロポーズを、覚悟を持って断って、別れまで提案した私。


どうして別れる話まで飛躍するのかと、太陽のような陽人には似つかわしくない、低く不安定な声に、歪になっていく顔。


まるで子どものように、いやだと、駄々をこねる、強く突き刺すような瞳を、現実的に考えて成り立たないからと、無理矢理引き離してまで、私は、私の道を進むことを選んだのだ。





……その価値があったのかは、進んでいく道で示すしかない。


それは、結婚より、仕事を選んだ女の宿命だから。





「…自分を守った一方で、さみしかった」


モヒートを、乾いた喉に流し込もうとすると、私のほしいものを全て持っていそうな無骨な手が。

言葉という一打が、それを止めた。



思考の停止したまま見返すと、心の奥まで入ってきそうな瞳に捕らえられる。



「…え?」


「そんな顔してる」