簡単に見抜かれてしまうホントウ。
鋭い傑は、どうして?と、あえて追求を口にせず、代わりに向けてくる瞳で問いかけてくる。
音にしないでくれた方が、胸の内を明かせることもあるという不思議。
オトナな対応を右側に心地よく感じながら、陽人の眩しい笑顔と、らしからず歪んだ顔を思い出して、心をハリが貫通するような感覚に出会う。
バーテンダーが目の前でつくっていくモヒートの、ミントにある苦味だけ、記憶から口内に広がっていく。
「…プロポーズされたの。去年。
海外転勤が決まったから、向こうで一緒に暮らそうって。アメリカに。…でも、断った。まだまだ仕事がしたいって。思うままに生きたいって。
…陽人より、自由を選んじゃった」
飛行機をみにいきたいと、陽人からの突然の提案。
珍しいそれに、何故?と。
質問を繰り返す私に、目的地に着くまで頑として答えをくれなかった陽人は、夜に煌めく無数のヒカリが飛行機を空へと導くその場所で、私とのミライを願ってくれた。
緊張が指先まであらわれている大好きな陽人の手を、迷いなく取って進めるのなら、間違いなく、女として、幸せであることはわかっていたけど。
「おかしな話でね。プロポーズしてもらったのに、嬉しさの前に、物足りなさがキタの。
陽人のプロポーズに対してじゃなくて、"私" としての人生は、これで終わってしまうのかって」
頭の中には経験したいことばかりがあちこちに散らばっていた。
ようやく職場での地位を築きはじめて、これから、私個人としても、価値を広げていくんだと心躍らせていた時期でもあったから。
まだ、何者にもなれてないと自覚している私に、仕事を捨てて、ただの女になる決心はつけられなかった。
結婚をして、海外でヒトリ。
陽人の帰りを待つだけの私では、足りなかった。