ワゴンはたちまち屋台にようになり、風に乗って甘いパンの匂いが漂ってきた。

お腹がぐぅと空虚な音をたてる。

やっぱお昼ご飯食べとけばよかったと後々後悔した。

どうやらここでパンを売っているようだ。

わらわらと看護婦さんや患者さんが集まる。

「いらっしゃいませ!!」

青年の声。

低いんだけど、こんなにも明るくて、優しい響きだと感じられるのは

これが初めてだった。

全ての人が思わず笑顔になるような。
そんな響きが。

「ありがとうございます!!」

また聞こえる声。

うるさいとは思わない。
むしろ、すごく嬉しい。

でも、

私にはここからその様子を見る事しか出来ない。
青年と私の間には何故だか境界線が引かれているような気がするんだ。

太陽と月の間の夕暮れみたいに。

決して越えるのが困難な壁ではないけれど、大きな勇気が必要なのは分かっていた。

もう一度ワゴンに目を向けると、パンはすでに売り切れていた。

すごい人気。

私が目を丸くしている

その時だった。

「あのー・・・」

ーートクンーーーー

私の心音が変になる。

何故なら、

「これいりませんか!?」

私の視界に

あの青年が大きく映し出されていたからだ。