「山口先生・・・。
鈴野響子さんに何があったのですか?」

小さな診察室に
まだ若い20代の看護婦と、
山口先生と呼ばれた人物がいた。

「ほぉ。
まさか亜由美くんから聞かれるとはな」

先生は万年筆から手を離し、近くの書類の整理をしながら言った。

「何故彼女の事を知りたいのかな?」

質問を切り替えされ、少し戸惑ったようすを見せたが、しっかりと先生の目を捉えながら答えた。

「とても不思議な子で。
無意識に知りたいと思ってしまったんです」

しかし
余りそれは答えになっていない。

「うーん。そうか・・・。
でもそれに答える事は出来ないな。
これは響子ちゃん自身にも告げていない。
私と彼女のお母さんぐらいしか知らないんだ。」

珍しく凜とした先生の声に、看護婦、いや、亜由美はたじろいだ。

けれど、
彼女は質問を続ける。

「告げてしまえばいいのでは?
そうしたら彼女の記憶を呼び起こすきっかけに、」

「ならない。」

ぴしゃりと先生がそれを遮る。

「それを聞いたら彼女は、きっと、記憶を起こさせないようにするでしょう。
思い出したくないくらい嫌な記憶だからーーーーーーー」

「せっ、先生!!」

突然、髪を振り乱した看護婦が入ってきた。

「きょ、響子ちゃんが
倒れました!!」

それを聞いて、先生は血相を変えて診察室を飛び出した。

亜由美も慌てて後をついていった。