私はここ、

森ヶ丘精神病院

に収容されている。

来たのはちょうど一週間前。

周りは私の住んでいた東京とまったく違う風景ばかりで少々驚いた。

青々とした森林、
どこからか聞こえてくる鳥のさえずり、
大きくそびえ立つ高層ビルは見当たらない。

私がここにいる理由。

それは多分

声が出ないからだろう。

しかし
原因がわからない。

その部分だけがポッカリと抜けてしまっているのだ。

今までいた病院でまったく喋らない私に、この病院を進められた。

『綺麗な自然の近くにいたら、きっと記憶がゆっくり戻ってきますよ。』

私の母が深くお辞儀していたのを覚えている。

果たしてそうだろうか。

私の記憶と声は

返ってくるのだろうか。

私はベットに俯せになると、何回も読んだはずの小説に手を伸ばした。