雅は、桜の木をチラッと見上げ、不思議そうに首を傾げた。

「愁を捜してたんだ。そしたら、桜を見てるって言うから驚いて…」
「それでここまで?」

こくんと雅は頷いた。その仕草をした雅は本当に心配そうな表情を浮かべていて、僕は何故かばつが悪かった。

「雨の季節には…出歩かない方がいい。滝に魅入られると…帰ってこれなくなるんだよ?」

僕の目を見ながら、雅は言った。
葉の人々は、雨の季節を毛嫌いしていた。

“滝に魅入られる”

葉の雨の季節には、どこからともなく滝がやってくる。
それこそ、何百、何万の滝が葉に集まって来るのだ。それはそれは壮大な景色で、見る者総てを虜にしてしまう。

「あくまでも言い伝えだろう?滝なんてどこにも無いじゃないか。」