「愁」


葉で最も気高く、最も神聖な言葉。
それが僕の名だった。



葉には表の世界とは異なった時間が存在する。
春夏秋冬、その四つの季節と、雨の季節がある。雨の季節は、表の世界で言う六月と七月の間に存在していた。





「……愁」
ぼんやりと桜を見つめていた僕の元へ、遠くから誰かが寄ってくる。その姿はみるみるうちに近付いて、僕の目にもはっきりと映る。
雨の季節は、葉は明るすぎて人を見分ける事すら困難になるのだ。

「捜したよ、愁」
僕よりも頭一つほど背が高く、それでいて驚くほど優しい声で言葉を紡ぎ出す、それが僕の友人の雅だった。

「雅、どうした?」