「紗良ちゃん?」


彼女でもないわたしにこんなことされて迷惑だったかな?…

だけど、どうしてもこの気持ちを誤魔化したかった。

名前を呼べない歯痒さ、情けなさ…


全てを消してしまいたかった。


だからってこのやり方は間違っていたかもしれないけど。

「どうしたの?」

水樹くんの優しい声が誰もいない教室に響く。


「……待っててほしい…わたし、頑張るから」

きっと、水樹くんは何を言ってるのかわからないよね。

「…待ってるよ、紗良ちゃんのことならいつまででも待ってる」


そう答えてくれた水樹くんはやっぱり誰よりも優しい。

「でも、そろそろ離してくれると色々と助かる、かな」

と言われ、そっと離れて水樹くんを見上げる。


「紗良ちゃんにこういうことされるのはかなり嬉しいんだけど、色々苦しくもなるから大変、俺」

水樹くんはそう言うと大きく深呼吸していた。