「菖蒲」


「...な、なんでしょうか」


すでに振り返っているのになぜかまた名前を呼ばれ、変な空気になってしまったのを打開しようと、恐る恐る返事をする。


「怪我、してんの?そこ」


幸村先生は私の右腕を指差しながら、核心をついた質問をしてくる。

まじか、と頭の中で繰り返す。

早速、バレた。というか幸村先生と話すの今が初めてなのに、なぜか気づかれた。練習だってさっきまで普通にしてて...


「いや別に、大したこと無くて...」

「卓球場くそ暑いのにあんただけ涼しい顔してジャージ着てるから」


聞いてもないのに、なぜ気づいたか教えてくれたけれど。

くそ暑いのに涼しい顔してるのは先生の方じゃん......

まさかのまさかだけど、それだけで気づかれた?もしかしてカマかけられてる?私が「実は...」って怪我のこと言い始めたら負け、的な?

ええい!こうなったらヤケだ!


「怪我してますよ、してますけど。してたらだめですか?」

「練習適当なのになんで怪我してんの」