「あのな……いい加減分かってるだろう? 俺が君をこんなところで寝かせると思うか?」
「思いません、けど……でも、本当に平気です。私、寝返りはほとんどうちませんし、このソファーならうちのベッドより全然寝心地がいいと思うので」
「そういう問題じゃない。俺は君が妊娠していなくたって、こんなところで寝かせたくないんだ」
 きっぱりと言い切った景光さんの瞳には、微塵の揺らぎもない。ここでどう言い募ったって、彼を納得させることはできないだろうと思い知る。そもそも秘書のときもハウスキーパーのときも、私が彼に口で勝てた試しなんて一度もないのだ。
「でも……」
「これ以上駄々を捏ねるなら、ベッドで俺と一緒に寝る羽目になるぞ」
「えっ」
 ベッドで、一緒に、寝る。
「……」
「な? 嫌だろう。分かったら早く寝室に……」
「分かりました。そうしましょう」
 一瞬の間にありとあらゆることを検討し終えた私は、景光さんの言葉を遮るようにして声を上げた。想定していた答えとはまるきり真逆だったのだろう、彼は珍しくぽかんと呆けたような顔を見せる。
「は、……待て、本気で言ってるのか?」
「……だって、貴方には口じゃ勝てないですから」
 彼をベッドで寝かせるためにはこうするしかない、――――そんな大義名分と、先ほどのハンカチで芽生えた嫉妬から、私の口からはいつもだったら絶対に言わないような台詞が飛び出した。
 景光さんは、私の意図を推し量るようにじっとこちらを見つめていたけれど、やがて諦めたように息をつくと、「いいんだな?」と念を押すように問いかけてみせた。そして、その問いに頷いた私を連れて、寝室へと足を踏み入れる。