2人の先輩に囲まれながらあたしはステージを見つめていた。これからここにゆうちゃんが立つだなんて全く信じられない。日頃ふざけてばっかりのゆうちゃんがステージで歌うなんて。
ゆうちゃんとはあの夜以来会っていなかった。大学でも見かけないし、連絡も来ない。あの日キスしたのは夢だったのかもしれない、とすら思っていた。好きの色に染まりかけていた気持ちも色々と気を紛らわせて上手に薄めてこれたと思っている。あともう一歩、という所だ。なのにこんな展開になるなんて。
ここへ来るまでずっとイヤホンでゆうちゃんの歌を聴いて来たけど声があまりに心に刺さるので戸惑っていた。あまりにもゆうちゃんの歌が素敵すぎて。あたしは、大丈夫だろうか。

ステージの袖から数名の人が現れて機材や楽器の前にスタンバイを始める。ザワザワしていた観客の空気感が急に変わる。あぁ、いよいよ始まってしまう。ゆうちゃんの出番は1番目。暗いままのステージに見慣れたシルエットが現れると一斉に観客が歓声をあげた。