「むぎ……」
「ん……」
かわいいな……。
寝てんのに、名前を呼ぶだけで俺のほうへ擦り寄ってくる彼女が愛しくてたまらない。
『心配してくれて、走ってきてくれて、うれしかった』
帰ってきて、むぎの声も耳に入らないくらい、むぎの意識がなくなる直前までキスしたのに、
怒るどころかありがとうって、笑って言ってくれて。
情けない……。
かっこいいとこを見せたいのに、むぎにはかっこ悪いとこしか見せられてない。
『余裕なくすくらい、私のこと心配してくれた証拠でしょ?分かってるよ。大好き、渚……』
なんて。
ほんと、なんで俺らの周りの女子ってこんな男前なんだろうな、碧。
男なんて、好きな子の言動1つに振り回されるような単純な生き物。
もう、かっこつけるとかどうでも良くなる。
彼女のためなら、どんなにカッコ悪くたって、彼女が隣で幸せだって笑ってくれるなら、なんだってする。
なんだって、してやりたくなるから。
「ん……」
やわらかい髪をひとなですれば、今度は俺の服をつかんで、もっとって言ってるみたいに、ますます体を押しつけてくるから。
あー……くっそ。
さっきあんなにキスしたばっかだろ。
風呂あがりのシャンプーの匂い。
手触りのいいパジャマ。
潤った唇。
ふれたい欲がむくむくと湧き上がってきたけれど、だめだと自分に言い聞かせ、伸ばしかけた手をグッと握りこんで。
「寝てるときまでかわいすぎんだよ……」
代わりにおでこに少し強めに唇を押しつける。
「ぜったいに守るから」
なにがあっても。