「っ、だからそうだって言ってる!
何回も言わせないでっ!」

「あっ、ちょっ、む……っ」


バタンッ!


引き止めるまもなく、猛スピードで寝室を出ていった彼女に向けた手が、空中で情けなく止まる。


ドッドッドッ。

心臓うるさ。

顔あっつ……。


バッと勢いよく立ち上がったむぎの顔は真っ赤で、はずかしさで今にも泣きそうって顔で。


くっそ……っ。

どんだけ俺のこと喜ばせる気だよ、おまえは……っ!


「むぎっ!」


もうぐしゃぐしゃに乱れたシャツとか髪とかそんなのもうどうでもよくて。


「むぎ!」

「来ないで!」


急いで部屋の中を見渡せば、プライベートプールのすぐそば。

簡易ベッドの上で俺に背を向けて体操座りで彼女はいた。


「こ、来ないでって言ったでしょ」

「夜に女の子が外で1人なんて危ないだろ」


「来てほしいなんて、頼んでない」


「俺が心配なの。むぎになにかあったら、俺何するかわかんねーよ」


「……何するの」


「世界滅ぼすかも」


「それはやめて……」


ベッドに座って、ゆっくりゆっくりうしろから抱きしめれば、


「っ……」


大人しく腕の中に閉じ込められて。

またぴくんと体を揺らして、耳まで真っ赤に染まる俺の愛おしい彼女。


「ごめん、最後まで話聞かなくて」

「……」


「まさか、そう思ってるなんて思わなくて、びっくりしただけ」


「……引いて、ない?」


「引くどころかむしろめちゃめちゃ嬉しくてどうにかなるかと思った。それこそ世界滅ぼすくらいには」


「それ気に入ったの?」


あ……。

肩を揺らして、ふふっと口元に手を当てるその仕草。

「やっと、笑ってくれた……」