そのあとのことは、はっきり覚えてない。


ただむぎにふれたくて。

ふれることに夢中で。


「や、だ……っ」

「え?」


「目、見えないの、や、だ……っ」

「っ!!」


「渚の顔が、見たい……っ」


震える声に、ハッと気づいたときには。


「っ、ごめん……っ!」


慌ててむぎを抱き起こして、ネクタイもほどいて。

ぎゅうっと包み込むように抱きしめた。

「っ、ごめ……俺、ほんとに、ごめん」


体、あっつ……。

熱が出てるんじゃってくらいのレベルだし、おでこも首も、汗びっしょりで。


ボタンも……やだって言ってたのに、俺が外して。


「はぁっ、はぁ、」

「ほんとに、ごめん……」


揺れる瞳の中、濡れた目元を拭えば、またぽろりと涙が落ちて。


体が、急速に冷えていく。


怖がらせた、泣かせた。


我慢しろって、ブレーキかけるってついさっきまで何度も言いかけてたくせに。

むぎのことを第一優先にするって決めたくせに。


間違えたくないって言ったのはだれだよ。


結局なにもできてねーじゃん、俺……。


未だはぁはぁと呼吸が乱れている華奢な背中をゆっくりトントンする度に、やってしまった罪悪感に胸が押し潰されそうになるくらい、苦しい。


「ほんと、ごめんな」


もう一度、今度は目を見て伝えれば、

「っ……」


なぜかその目がきゅうっと切なく細められた。