そんな、つかず離れずの距離を締めくくったのは、大学の卒業式。
追い出しコンパのあとに二人で抜け駆けした思い出は、今夜のシチュエーションとよく似ている。
就職してからは、一度も彼女には会わなかった。
サークルのOB会にも顔は出せなかったし、今日まで集まる機会もなかったからだ。
所詮は親友でも、彼氏でもない。
それでも僕にとっては、彼女は数少ない青春だった。「何してるだろう」「会いたい」そう思い馳せる日も、なくはなかった。
「私さ、見透かされるの好きだった」
「何、それ」
「作り笑い、見抜いたでしょ?最初に」
なんだ、やっぱり覚えてたのか。
グイッ、とジョッキを傾ける彼女に、僕は息をついた。カルーアミルク位しか飲めない僕にとっては、その飲みっぷりさえ、憧れの一つだったのかもしれない。
「今日も思ってた」
「え?何が?」
彼女は切れ長の瞳を見開き、僕との距離を詰める。
妙に大人びた格好のせいか、学生時代にはなかった香りのせいか、こんな些細な仕草でいちいち心臓が抉られた。
「愛想笑い。あと、なんでワイングラスにビール?って顔してたろ」
そう言って頬杖をつくと、彼女は失笑した。