翌日から再び仕事が開始した私たちは、またほとんど顔を合わせない日を送っていた。
巧は夜遅いし、帰ってきてもどこか私に距離を置いている気がした。
もう何度目かわからないスマホで検索をかけてみると、『男は実は繊細な生き物で強く誘いを拒絶されると立ち直りに時間がかかる』と読んだ。まじか、私はほんとにやらかしてしまったらしい。
それでもまさか自分からあの夜について話題に触れる勇気もなく、どうしていいのかわからないままだった。
「杏奈っちゃーん」
金曜の夜。仕事を終えて外に出ると、聞き覚えのある声がした。私はげっそりとした顔でそちらを見る。
やはり、またしても樹くんが私を待ち伏せていた。
彼は私の顔を見てキョトン、とする。
「あれ。金曜の夜だからかな? 顔疲れてるねー?」
「そうかな……」
旅館で私たちの部屋に突撃してきた樹くんを、あの時は呆れながらも笑って見ていられた。だが、その後あんな事態になってしまったので、私は今更ながら樹くんを少し恨んでいた。あの突撃がなければ、今巧とこんな気まずくなってなかっただろうに。
自分が悪いくせに、私は心の中でそう思っている。心の狭い女だ。
私が歩き出すと、やはり樹くんが横をついてくる。
「いやーこの前の旅行楽しかったね! できればあのあと一緒に観光も行きたかったのにー」
「樹くん起きてたでしょ、あれ」
「あはは、やっぱバレてるよね? いいじゃん、どうせ二人は家に帰ったら好きなだけ一緒にいれるんだしさ。あんなのちっちゃな嫌がらせでしょ?」
私は目を座らせて樹くんを見る。好きなだけやれてたら今こんなことになってない。あいにくだが巧とはプラトニックな関係ですなんか文句あるか。
私の様子に樹くんはキョトンとした。
「どうしたの、なんか機嫌悪い?」
「いや……ちょっとね。ごめん、自分が悪いんだけどさ」
私はふうと小さくため息をついて歩みを進める。樹くんはそれでもついてきた。
「ね、今度こそ二人でご飯行こうよー」
「今日は急いでるのごめんね」
「ええー。結局一度も杏奈ちゃんとご飯二人で食べれてないんだからさー」
「別に二人じゃなくてもみんなで食べたでしょ」
「みんなじゃなくてさー」
口を尖らせてる樹くんを置いてスタスタと足を進めていく。明日は休日だし、巧とちゃんと話せるかな。また料理でもしようか。ワンパターンだな自分。