「でも焼肉とかしゃぶしゃぶもいいなー」

「なんでも行けばいい。休みは合うんだから」

「豚になりそう……」

 そういいながら、部屋への襖を開けたときだった。

 目の前に、布団が並んで敷かれているのが目に入った。

「…………!」

 完全に油断していた自分は固まる。

 まさに。

 これは、『まさに』ではないか!!

 旅館に泊まりに来たからには、食事が終えた頃布団が敷き終わっているのは当然とも言えるサービスだ。でも残念な私の頭からはそれがすっかり抜けていた。多分オーウェンたちは布団ではなくベッドでいつも寝ていたからだ。

 ピッタリ隙間なく並ぶ布団はさすがに夜を連想させる。

 顔が熱くなるのを自覚した。そういえば夕飯食べすぎて腹が出ているかもしれない。控えるべきだったか。

 そんな私をよそに、巧は表情一つ変えないまま部屋にはいりこんで携帯を充電しに行った。本当に全然意識してない顔。

 それが大変に悔しかった。私だけ慌てふためいてる。

 何より、巧は今までもこうして他の女の人と来たことあったのかなあ、なんてくだらない嫉妬心が自分の心を覆った。来たことあるに決まってる、ない私が異常なんだっていうのに。

「杏奈? どうした突っ立って」

「えっ。あ、私……部屋のお風呂入ろうかな!」

「ああ、せっかくなら入ってきたら」

 巧はテレビをつけて興味なさそうにそう言った。私は自分の頭を冷やすためにも、慌ててお風呂へと駆けていった。