「樹くん謝ってくれたよ、この前はからかっただけだって。悪い子じゃないよ。二人きりになったわけでもないし何をそんな怒ってるの」
「この前押し倒されておいてお気楽か」
「だからからかっただけだって」
「やけに庇うな」
「ちゃんと話したらいい子だって分かったの」
「お前は女しか見てないから異性に鈍いんだよ。もっと危機感を持て、馬鹿」
この男の口の悪さは知っていたが、それにしても今日は棘がありすぎる気がした。そして他の女と楽しくホテルに行っていた光景もなぜか目の前に浮かんできて、私はついカッとなった。
そりゃ三次元の男なんてあまり関わってないから鈍いかもしれない。でも、結婚相手の弟と立ち話しただけで馬鹿呼ばわり?
「私別に女が好きなわけじゃないけど?」
つい口にでた言葉はそれだった。しかも相手はあんただよ、あんた。……なんてことは口が裂けても言えないが。
巧は私のセリフを聞いた瞬間、目をまん丸にさせた。私はプイッと顔を背ける。
彼は唖然とした様子で立ち尽くし、どこか掠れる声を出す。
「え……だって、お前……」
「私女が好きなんて一言も言ったことないもん。どちらかといえば恋愛対象は男。ただ基本的には恋愛に興味なかったからあの文句使ってたの。そしたら周りが勘違いして」
「はあ……? 恋愛対象、男?」
ここまで言い終えてからしまった、と思った。私は女が好きなんだと思い込ませておいた方が色々と楽なのに、なぜこのタイミングでバラしてしまったのだろう。
気まずい沈黙が流れた。今巧がどんなことを考えているのか分からなかった。でもあの自意識過剰男だから、『じゃあ俺のことが好きになったのか』とか言い出しそう……いや、自意識過剰でもないのか悔しい。
そこだけは断固バレてはいけないと思った。なんとしてでも隠し通さねばならない。
「なん、で最初から言わないんだよ……」
弱々しい声が聞こえてそちらを向いた。巧は項垂れるように肩を落としていた。なんだか気の毒になりながらも、私は強気に言う。
「言う必要ないかなって」
「散々そう噂されてたからてっきりそうなんだと」
「今どき同性愛者も珍しくないし、そう思われてデメリットはないから放っておいた。恋愛に興味ないのは本当だったし。だからって別に私は……」
言っている最中、隣に置いておいた携帯が鳴り響いた。反射的にそれを見ると、先ほど登録したばかりの樹くんの名前が出ていた。心配になって電話を掛けてくれたらしい。
あっと思ったのも束の間、私が手を伸ばすより先に横から携帯を取られた。見上げれば、巧が携帯の画面を見て驚きの顔をしていた。
「ちょ、ちょっと勝手に」
「……樹と連絡先交換したのか?」
「え?」
「お前、樹のことが好きなのか?」
呆然としたように言ってきた巧に少し驚いた。まさかそんな考えになるとは想像していなかった。
そんなわけないのに。ほとんど会ってもない樹くんを好きになるだなんて。そう思いつつ、巧への気持ちがバレるくらいならそうしておいたほうがいい気がした。
私は立ち上がって巧から携帯を奪う。未だ着信音を鳴らすそれをポケットに仕舞い込み目を逸らしたまま言った。
「恋愛は自由なんでしょ」
「この前押し倒されておいてお気楽か」
「だからからかっただけだって」
「やけに庇うな」
「ちゃんと話したらいい子だって分かったの」
「お前は女しか見てないから異性に鈍いんだよ。もっと危機感を持て、馬鹿」
この男の口の悪さは知っていたが、それにしても今日は棘がありすぎる気がした。そして他の女と楽しくホテルに行っていた光景もなぜか目の前に浮かんできて、私はついカッとなった。
そりゃ三次元の男なんてあまり関わってないから鈍いかもしれない。でも、結婚相手の弟と立ち話しただけで馬鹿呼ばわり?
「私別に女が好きなわけじゃないけど?」
つい口にでた言葉はそれだった。しかも相手はあんただよ、あんた。……なんてことは口が裂けても言えないが。
巧は私のセリフを聞いた瞬間、目をまん丸にさせた。私はプイッと顔を背ける。
彼は唖然とした様子で立ち尽くし、どこか掠れる声を出す。
「え……だって、お前……」
「私女が好きなんて一言も言ったことないもん。どちらかといえば恋愛対象は男。ただ基本的には恋愛に興味なかったからあの文句使ってたの。そしたら周りが勘違いして」
「はあ……? 恋愛対象、男?」
ここまで言い終えてからしまった、と思った。私は女が好きなんだと思い込ませておいた方が色々と楽なのに、なぜこのタイミングでバラしてしまったのだろう。
気まずい沈黙が流れた。今巧がどんなことを考えているのか分からなかった。でもあの自意識過剰男だから、『じゃあ俺のことが好きになったのか』とか言い出しそう……いや、自意識過剰でもないのか悔しい。
そこだけは断固バレてはいけないと思った。なんとしてでも隠し通さねばならない。
「なん、で最初から言わないんだよ……」
弱々しい声が聞こえてそちらを向いた。巧は項垂れるように肩を落としていた。なんだか気の毒になりながらも、私は強気に言う。
「言う必要ないかなって」
「散々そう噂されてたからてっきりそうなんだと」
「今どき同性愛者も珍しくないし、そう思われてデメリットはないから放っておいた。恋愛に興味ないのは本当だったし。だからって別に私は……」
言っている最中、隣に置いておいた携帯が鳴り響いた。反射的にそれを見ると、先ほど登録したばかりの樹くんの名前が出ていた。心配になって電話を掛けてくれたらしい。
あっと思ったのも束の間、私が手を伸ばすより先に横から携帯を取られた。見上げれば、巧が携帯の画面を見て驚きの顔をしていた。
「ちょ、ちょっと勝手に」
「……樹と連絡先交換したのか?」
「え?」
「お前、樹のことが好きなのか?」
呆然としたように言ってきた巧に少し驚いた。まさかそんな考えになるとは想像していなかった。
そんなわけないのに。ほとんど会ってもない樹くんを好きになるだなんて。そう思いつつ、巧への気持ちがバレるくらいならそうしておいたほうがいい気がした。
私は立ち上がって巧から携帯を奪う。未だ着信音を鳴らすそれをポケットに仕舞い込み目を逸らしたまま言った。
「恋愛は自由なんでしょ」