ほんとそうだよね。巧と出会う前も趣味と仕事で楽しかったけど、また違った喜びを知ることが出来た。この人ときたら色々変な人で大変なこともあったけど、今思うと笑い話になる。

 人と時間を共にするってこういうことなのかな。過去の失敗すら笑って話していける。

「ほんと変な感じ。変な感じだけど凄く幸せ。いい一年だったよ。来年もこうやって出来たらいいね」

 心の底からそう言う私を、巧はじっと見つめていた。

 私は目の前の料理を口に運びながらお酒を嗜む。美味しいものに囲まれて最高に気分は高揚している。

 そう来年も、再来年も。こうやって楽しくいれたらな。あーでも完璧すぎて巧の誕生日どうしよ、困ったや。

 一人色々考えながらもぐもぐ咀嚼していると、巧が口を開いた。

「杏奈」

「ん?」

「俺今から変なこと言うけど笑わないか?」

「内容による」

「ははっ、そこ笑わないよって言うところだよ馬鹿」

 巧は自分で笑ってしまったあと、すっと席を立った。そして私の方まで回ってくると、隣の椅子を引いて腰掛ける。

 私は不思議に思いながらその行動を黙って見ていた。

 巧は私の隣でしばらく沈黙を流したあと、ポケットを漁る。そしてそこから出てきた物を私に差し出して、優しい声で言う。



「杏奈。結婚してほしい」



 彼が持っていたのは指輪だった。



 手にしていた箸を落とした。カランと高い音を立てて転がり床に落ちる。それを拾う余裕もないほど、私は呆然として小さな輪を見ていた。

 巧は優しく笑いながら言う。

「ま、もうしてるんだけど。でも俺たちの婚姻は、契約上の始まりだったから」

「……」

「これは契約じゃなくて、一人の男としてのプロポーズ」

 ただ呆然と、彼の顔を見上げていた。



 私たちは戸籍上夫婦だ。

 でもそれは愛のある結婚じゃなかった、ルームシェア状態から始まったこと。

 その後恋に落ちた私たちは、付き合うところから始めようだなんてめちゃくちゃなルートを辿っていた。

 それからも色々あって。大変で。

 でも二人でやっとここまで来れた。