翌週土曜日。

 その日は早い時間帯からなんと巧がキッチンに立って調理をしていた。まさか彼が料理をしてくれるとは夢にも思っておらず、キッチンに来た私は驚きで停止した。

 いや、巧といえば実は私より料理が上手い。何度も作ってもらったことはあるし、私が彼に作った回数より多いくらいだ。

 でもまさか、誕生日にも作ってくれるなんて。

 ……普通男女逆じゃない? 今更だけど巧なんで私なんかがいいの?

 黙々と調理を続けた彼はどんどん品数を増やしていった。私にはまるで出来ない手際のよさだった。

 その日は和食らしく、丁寧で見栄えもいい料理でテーブルが埋め尽くされていく。



「いや、巧……引くぐらい凄い」

「引くなよ」

 全て完成した頃、私は本当にちょっと引いて言った。

 所狭しと並ぶおいしそうな料理たち。嘘でしょ、これ全部作ったの?

「初めに言っておくけど巧の誕生日期待しないで」

「はは、期待してない」

「それはそれでムカつく」

「別に人間得意不得意があるのは当然だろ。俺は昔から結構好きだったんだよ料理。別に男だとか女だとか関係ないと思うし。さー飲むか」

 彼は冷蔵庫からお酒も取り出す。私は飛び跳ねて席に座った。

「やった、明日休みだしいっぱい飲める!」

「ほんと酒好きだな杏奈は」

「凄い料亭みたい、豪華な一日。巧ありがとう!」

 素直にそういうと彼は笑った。二人分のグラスを並べて乾杯する。

 そして箸を持って食事を口に運ぶと、唸ってしまいそうな味付けで感嘆した。

「おっいし、何これ」

「それはよかった」

「巧いいお嫁さんになれるね」

「嫁はお前だ」

 笑いながらお酒も口にする。うん、最高。

 久しぶりに訪れた穏やかな休日にホッと息をついた。
 
 ついに私も二十八。去年は色々あった年だった。

 二次元にしか興味ないけどばあちゃんの喜ぶ顔が見たくて巧と結婚して。その後ばあちゃんは亡くなっちゃたけど、巧とはまさかの恋愛がスタートして。

 ……信じられない一年だったよほんと。

 つい一人でふふっと笑ってしまった。巧が不思議そうに見てくる。

「あ、ごめん。少し前の自分じゃ考えられない誕生日で」

「今まではどうしてた?」

「えー都合が合えば友達とご飯行ったり。でもこの年にもなると、みんな結婚したり子供いたりするから予定合わないことも多いから。普通に一人でオタ活してた」

「まあ、俺もそんなもんだったけど」

 箸でご飯を食べながらぼんやりと思い出す。

「だからこんなに全力で誰かに祝ってもらえたのいつぶりだろうって。もう誕生日なんてさして嬉しくない年だけど、やっぱり嬉しいね。祝ってくれる人がいると」

 目の前に座る人に笑いかけた。