雨夜くんはわたしにとって、友達というかもはや、神様的な存在だ。
すごい人。素敵な人。だけど……やっぱり、不思議に思うんだ。
雨夜くんはどうして、ここまでわたしによくしてくれるんだろう。
たとえば、実は昔会っていて、わたしが恩を売っていたとか。そういう出来事があったならまだしも、そんな記憶は一切ない。
すごく幼いころだったとしても、雨夜くんほど整った顔の男の子なら、覚えているはずだ。
それに雨夜くんは、優しくて王子様みたいな人だけれど、どこかつかみどころがないような気がする。
リアルに存在しない、二次元の人。そんな風に感じてしまうこともあって。
……まあ、そう思うのも、雨夜くんが完璧すぎるからだよね。
そんな形で雨夜くんのことを結論づけて、【夜の雨】という本に手を伸ばす。
クッと指先に力を込めて、書架から引き出そうとしたときだった。
「はい、それでお願いします」
「……!」
聞き覚えのある声が、ふいに耳に入った。
最近よくわたしの鼓膜を揺らす、とても心地のよいテノール。でもここでは、聞こえるはずのない声。
そんなわけ……と声が聞こえてきたカウンターの方に目をやって、わたしはぱかりと口を開いた。
だって視線の先には、長身でさわやかな短髪。整いすぎるくらい整っている、見間違うわけがない、彼がいたから。
あ、雨夜くん……!?
驚きのあまり、つかんでいた本をパッと放してしまう。