「あ……」


それでも口を開こうとすると、また焦りがぶり返す。

けれど雨夜くんは、そんなわたしをあたたかく見守ってくれて。


「……うん、大丈夫。ゆっくりでいいよ」


急かさずに待ってくれて。だから時間がかかったけれど、わたしは言葉を口にすることができた。


「あの……と、図書室……今日が、初めてで……」

「うん」

「えっと……ま、前から、来たいとは、思ってたんだけど……」


自分の思いや考えが、中で潰れることなく外に出ている。


「そっか、俺もはじめてなんだ。四階って、けっこう上るのキツいよね」

「う、うん……!」


相手に伝えることができている。会話が、生まれている。


本の匂いが落ち着くとか、寝ながら読んでいて顔に落としたことはあるか、とか。

それからもわたしたちは、予鈴が鳴る手前まで、他愛もない会話を続けた。

雨夜くんにリードしてもらうばかりだったけれど、それでも、いくつも言葉を発することができたんだ。


まるで、交換日記がはじまったあのときのようだった。

世界が再び、優しく淡く色づいていく。