「ゆっくり、進めていこう。永田さんがいいなら、俺、毎日ここに来るから」


手で必死に涙をぬぐうわたしに、また優しい声がかかる。


「〝わたしなんか〟じゃないよ」

「……っ」

「永田さん……俺ね。ブスとか気持ち悪いとか……そういうのは全部、相手が勝手にかけてきた呪いみたいなものだって思うよ」


雨夜くんの声が、真摯な響きを持って、耳に届く。


「真実じゃないんだ。悪意をぶつけられただけ。永田さんは……可愛いよ」

「〜ふ……っ」


雨夜くんがくれる、呪いに対する反呪文。

手でぬぐうには間に合わない量の涙が、ひっきりなしにあふれてくる。


「……永田さん。少しそばに、寄ってもいい?」

「……っ、う……ん……」


雨夜くんは了承を取ってから、ゆっくりわたしのほうに歩いてきて。ちゃんと顔の前にノートを構えたまま、タオルハンカチを差し出してくれた。


そのあとしばらくして……わたしの涙が落ち着いてから。


「永田さんて、図書室はよく来るの?」


離れた席に戻った雨夜くんは、ごくごく自然な会話を、おだやかなトーンで振ってくれた。

涙を存分に流したことと、雨夜くんが顔の前にノートを構えてくれていること。

それらのおかげで緊張はずいぶんおさまっていて、逃げたいという気持ちはもうなかった。