「今日は、この状態で話さない?」

「……?」

「こうして視線が合わなかったら……永田さん、しんどくないかなって」

「……っ!」


綺麗な目も、品のある鼻も口も。全部ノートの後ろにおさめて、雨夜くんは話す。


「考えたんだ、昨日。荒療治にはしないで、段階を踏んで無理なくやっていけたらなって」


雨夜くんの言葉が、徐々に頭に染み込んでくる。

意味を理解して、そうしたらじわっと目頭が熱くなるのを感じた。


……ああ。ああ、そうなんだ。

この人は本当に、ちゃんとわたしのためを思ってくれているんだ。

迷惑だなんて思わずに、引くこともなく。いったいどれだけ思いやりがあって、優しい人なんだろう。


こらえなきゃ、と思ったときには、もう涙がこぼれてしまっていた。

あわててスンと鼻をすする。その音に、ノートの向こうの雨夜くんがハッとした様子をみせた。


「怖かったら無理しないで。こうして会うのも嫌だったらーー」

「ち、が」


ぎこちない音を落として、首を振る。涙がぱたぱたと、左右に飛ぶ。


「違う……嬉しくて……」


言葉を出すのは苦手だ。顔を上げるのと同じくらい。それよりもっと。


「わ……わたしなんかに、ありがとう……っ」


でもこうして向き合ってくれる人がいるなら、苦手を踏み越えられる。

自分の中で、言葉を殺さずにいられる。