「入ってもいい?」
「〜は……はい……っ!」
条件反射で出した声が見事に裏返って、ああ、と土に埋まりたくなる。
でも埋まることなんてできないうちに、ドアノブが回って。
「……お邪魔します」
生まれたすき間から、記憶に新しい、整った顔がのぞいた。
「……っ!」
細部までつくり込まれた、端正な顔立ち。目の奥で、光がはじける。
喉が潰れたようになる。心臓も。体中の臓器が痛い。
容量を超えた緊張による精神的な負荷が、肉体にも思いきり影響をおよぼす。
「お疲れさま、永田さん」
室内に入ってきた雨夜くんが、わたしのいる席からもっとも離れた、対角線上の席につく。
「……ぁ」
言葉を、返せない。顔を上げられない。
わたしの顔なんて見せられない。恥ずかしい。無理だ。帰りたい。逃げたい。
……消えちゃいたい。
いよいよ呼吸ができなくなった、そのとき。
「永田さん、見て」
雨夜くんが、とても落ち着いた声で言った。
それはまるで、パニックの黒い渦に生まれた凪。導かれるように、ゆっくりと視線の位置を上げる。
すると、雨夜くんがカバンからなにかを取り出して、スッと顔の前に構えた。
ノートだ。交換日記のノートとは違う、緑カバーのノート。
目を丸くするわたしに、雨夜くんが問いかける。