「……はあ」
「……!」
非難するような大きなため息が、矢崎さんから発された。
確実にわたし宛てのものだ。冷や汗をかいていると、矢崎さんはドアを大きめの音で鳴らして、図書室から出て行った。
バン、という音に、息を止めたまま戦慄する。
どうしよう。あきれられた? 怒ってた?
自分が本当に嫌になる。なんでわたしはこんな風にしかできないんだろう。
もしこれがきっかけで、高校でもいじめられたらどうしよう。
汗を止めることができずに、プリーツスカートの上で拳を握る。
スカートの生地が、くしゃりといがむ。
――矢崎さん。矢崎舞花(まいか)さん。
わたしは入学当初から、彼女をとくに苦手に思っている。
派手だから怖い。でも本当の理由は、わたしのいじめを率先して行っていたリーダー格の子に、ちょっと似ているからなんだ。
あの子も、くっきりした猫目だった。
いじめられてからというもの、わたしにはたくさん苦手なものが増えてしまった。
くっきりした猫目。ポニーテール。
それから……イチゴ味のアイスも、メロンソーダも、RIRIという女性シンガーの歌も、アヒルのキャラクターも、全部苦手だ。
だってどれも、親友だった美和が好きなものだから。
苦しかった当時のことを、思い出すキッカケになるものたちだから。