なのに、自分にあそこまで自信を失っているなんて。きっとひどく、理不尽な目にあったんだろうと思う。

腹立たしいことだ。けれど、仕方ないとも思う。

だって世の中は、理不尽であふれているから。


うまく立ち回れなかった人間は損を食う。

必ず、勝者と敗者が生まれる。


そして俺は、ずっと勝者だった。

これからも……そうであるはずだった。


ーーキキキイ。

勢いにのったまま渡ろうとした横断歩道。

ところがタイミング悪く信号が赤になって、断末魔のようなブレーキ音を鳴らしてしまった。


「は……っ」


こぼれる、はずんだ息。

無表情で、人型の浮かんだ赤いランプを見つめる。


危険を言い渡す、その赤色から連想されるように……脳内に、廊下で崩れ込む永田さんの姿が浮かんでくる。


『が……っ、かり、させて……ごめ、なさ……っ』


人が過呼吸に陥る場面を、初めて目の当たりにした。

なかなかの衝撃だった。なのに今、感情が妙に平坦なのは、自分の本心と行動が合っていないからかもしれない。

まるで俳優が、自分とはべつの人間を演じるみたいに。