きっとまだ、ベッドに寝ているであろう彼女。

学校から離れていきながら、小柄なそのシルエットを頭の中に呼び起こす。


『だから……俺と話そう、永田さん』


あのあと。

呆然とする永田さんを前に、俺は体良く話を進めて……さっそく明日の夕方、会話のリハビリに取り組むことになった。

夜間の授業が始まる前に、図書室で落ち合う。

そう話がまとまったタイミングで養護教諭が戻ってきて、俺は帰路につかされたのだけれど。


それにしても……まさか今日、永田さんに会うとは思わなかった。


年季の入った自転車は、ペダルを踏みしめるたび、ギッギッと鈍い音を立てる。

悲鳴を無視して漕ぎ続け、俺はさらに考えを広げる。


ーー永田温美さん。

彼女と直接対面したのは、今日が初めてだ。

でも、交流のはじまりはもう少し前。きっかけは、一冊のノートだった。


永田さんは全日制の生徒で、俺は夜間の生徒。本来なら交わるはずがないのだけれど、使っている席がたまたま同じで。

永田さんが忘れていったノートを、俺が見つけたのだ。


【過去なんて、消してしまいたい】
【いじめられる前に戻りたい】
【わたしは、ブスで欠陥品だ】


マイナスな文章が無数につづられているのを見たときは、驚いた。