ーーガチャリ。

夕空の下。自転車に差し込んだ小さなカギが、その体積以上に大きな音を立てた。


文化祭が終わり、喧騒が去った校内。

疲労感と達成感が入り交じった独特な空気が、校門付近にあるこの自転車置き場にまでも及んでいる。


けれど……俺が違和感をおぼえるのは、その空気が原因じゃない。

こんな時間に、帰ろうとしているからだ。

夜間の授業が終わって帰るときはいつも、夜はどっぷりふけているから。


――夜間定時制。

それは、わけがあって日中の学校に通えない人間が、夜に集まり勉強するところだ。

県立常和高校は、全日制とこの夜間定時制をあわせ持っていて。中学卒業後の四月から、俺は夜間の部のほうに通っている。


昼間は印刷工場で仕事をして、学校に来るのは決まって夕方。

明るいうちに校舎に入ったのは、文化祭に参加した今日が初めてだった。


一度深く息を吐き出すと、俺は足を上げ、古い自転車にまたがった。

ペダルを踏んで、ゆったりと校門に向かって漕ぎ始める。


……永田さんは、大丈夫だろうか。

校門を抜ける手前。一瞬だけ、保健室のある南館のほうに視線を投げた。