まともな呼吸の仕方を忘れたまま、目を見開く。

だれかが、降りてくる。こっちに来る。


「利益は打ち上げでパーっと使お!」

「カラオケだよね!超楽しみー!」


……いや、だ。

涙が追加で、ぶわっとあふれる。

こんな場面、見られたくない。もうこれ以上、だれかの視線にさらされたくない。


「……ごめん」


自己肯定感が地に落ちかけた、そのとき。耳元に、緊迫感のある声が落ちた。

そして次の瞬間、ふわりと体が浮き上がる。


「……っ!?」


なにが起きたか、数秒理解できなかった。

いわゆる……お姫様抱っこ。雨夜くんが、わたしの体を抱きかかえて立ち上がっていた。


「ちょっとだけ、我慢してて」


上から降ってくる、優しいテノール。わたしを抱えて、雨夜くんが走り出す。


放心状態でボロボロのわたしは、もうひとつも、アクションを起こすことができなくて。

彼の腕に、ただ身を任せるしかなかった。