「えっと……ごめん、いきなり。俺――」


雨夜くんの言葉を、全部聞くことはなかった。

わたしは勢いよく立ち上がると、弾丸のごとく教室を飛び出した。


「え……ちょっと待って!」


雨夜くんの声が追ってくるのが聞こえたけれど、止まれるはずがない。

頭の中は、混乱一色だった。

どうしよう、知られた。わたしが永田温美だって。

ばっちり顔も見られた。どうしよう、どうしよう……!


『ブース!』


混乱のさなか、おそろしい声がよみがえる。

今実際に言われているかのように、今、鼓膜をふるわせられているかのように。


中学時代に浴びせられた、わたしを傷つけるためだけの言葉たちが、わき出てくる。


『キッモ。こっち見んな』

……やめて。

『永田菌がうつるー』

……やめて。

『顔見るだけで気分悪いんだけど』

……やめて、お願い。

お願いだから――。


「待って! 永田さん!」

「……っ!」


ぐっ、と。わたしに追いついた雨夜くんが、わたしの腕をつかむ。

瞬間、喉奥がヒッと変な音を立てた。


「……っ、」


呼吸が、できない。

首と肺を同時に握り潰されたように、息が吸えない。吐けない。


と思った次の瞬間、急に呼吸が再開し、ヒイヒイと激しいものになる。

その場にくずれこむ。中学のときに数回なったことがある――過呼吸だ。


「ひ、ひ……っ」