それとも、先生に預けていってくれたかもしれない。だとしたら本当に申し訳ない。
「……わたし、最低だな」
消えそうなくらい小さなつぶやきを落として、肩にかけているカバンの柄を握りしめた。
『大丈夫?』
あれは……本当に、まさかの偶然だった。
まさか、雨夜くんに会うとは思わなかった。
あんな、一瞬出ただけのタイミングで。自販機前なんかで、会ってしまうなんて。
わたしだけが一方的に知ってしまった、雨夜くんの姿形。
さわやかさと大人っぽさを兼ね備えていて、素敵な男の子だった。
もし雨夜くんが同じクラスにいたら、モテるどころの騒ぎじゃないと思う。
きっと、キラキラ目立つ人ばかりがまわりを囲うだろうな。交換日記をやめたのは、正しかったな、本当に。
わたしみたいなのが相手なんて、不釣り合いもいいところ。笑っちゃいそう。ううん、笑えない。
そんなとりとめのないことを思いながら、わたしはぼうっと、一年三組の教室に視線を向けた。
教室の中は電気がついていなくて、ほんのりと暗い。
上級生は自分の教室で片付けをしているから、一年生の教室が並ぶ一階には、今はだれもいないんだろう。
一年三組。昼は、わたしが使っていて。
夜は……雨夜くんが、使っている場所。
「……っ」
ぐっと、息が詰まった。
数回意識的に呼吸をしてから、わたしはゆらりと、右足を前に踏み出した。
一年三組に、行こうと思った。