ショックすぎる出来事があると、多分、脳みそがうまく記録できないのだろう。

それから残りの時間をどうやって過ごしたのかは……よく、覚えていなくって。


「ただ今をもって、第三十八回、常和高校文化祭は終了いたします――」


何も考えられないまま、お腹には何も入らないまま。気がついたら、そんな校内アナウンスが流れていた。


アナウンスから間もなくして、外がガヤガヤとにぎやかになる。

その喧騒に、一年生は放送を聞いたら帰っていい、という阿形先生の言葉を思い出した。


……わたしも、帰らなくっちゃ。

ぼうっとした頭で、そう思った。


もう少し待ち、楽しげな空気が薄まったのを見計らって、わたしはのそりと重い腰を上げた。


午後四時すぎ。

北館から外に出ると、昼に一瞬だけ出たときよりもワントーンほど、辺りは暗くなっていた。


すぐに校門には向かわなかった。

わたしがまず足を運んだのは、体育館横の自販機だ。

自販機まわりを確認したけれど……目的のものは、見当たらなかった。


『小銭、全部拾えたと思うんだけど――』


数時間前。親切な男の子――雨夜くんが拾って、差し出してくれたコインケース。

なのにわたしときたら、全速力でここから逃げてしまった。


雨夜くんは、すごく困ったと思う。

コインケースをここに置いていないということは、まだ持ってくれているのかな。