どうしよう、と思っても、どうにもできない。

ただ、これ以上顔を見られないように、丸まっていることしかできなくて。


「……こら、怖がってるだろ。っていうか、明山(あきやま)も小銭拾って」


黒髪の男の子が、金髪の男の子を制しているのが聞こえる。

そして次の瞬間。わたしの壊れかけの心臓に、とどめがくわえられた。


「怖がらなくてもいいじゃんよー! 俺らが夜間生だからってさ」

「……っ!」


……や、かん?


「俺も、こちらの雨夜涼大先生も、超優しいぜ? な?」


……あまや、りょう?

鳥肌が、ぶわっと立った。頭のてっぺんから、足のつまさきまで。

う、そ。 うそ、でしょう……?


「……はい」


すぐ近くに、声が落ちた。

首を折り曲げていて、極狭になった視界に、コインケースを持った手がうつる。


「小銭、全部拾えたと思うんだけど――」

「……っ!」


転がる、ように。

その表現が、きっと正しかった。

もうこれ以上、息が吸えなかった。キャパオーバーだった。


わたしはコインケースを受け取ることなく、転びかけながら立ち上がり、転がるようにその場を走り去った。


「え……っ」


男の子たちが、戸惑いの声を上げたような気がする。

けれどもう、脳みそが情報を受けつけない。


「……は……っ」


なんの言葉にもならない、声がこぼれる。

足がもつれる。腕がふるえる。泣きそうだった。


……ああ。

今の、あの人が。あの人が、雨夜くん。


わたしとやり取りしてくれていた、男の子――。