締め切っていたとびらと窓のおかげで聞こえなかった喧騒が、急に近く、リアルになる。
……早く買ってこよう。
前傾姿勢になり、わたしは早足で、体育館横の自販機を目指した。
歩みをゆるめることなく、予定通り自販機にたどり着いて。チラッと見て、お汁粉があることを確認する。
……早く、早く。
急いた気持ちであせあせと、がま口のコインケースを開ける。
百円を取り出して、入れるだけ。お汁粉のボタンを押すだけ。
それで空き教室に戻ろう。早く。
……はやく。
「あーっ!超腹いっぱい!!」
「……っ!?」
そのとき。突然後方から、叫ぶような大声が響いた。
ビクッと肩が揺れる。その所為で、コインケースが手から離れた。
中に入っていた小銭がバラバラと、面白いくらいいろんな方向に転がっていく。
う、うそ……!
新品の画用紙みたいに、頭の中が真っ白になってしまう。
真っ白ながら、必死で考える。えっと、お金。お金を拾わなきゃ。
まず、コインケースを――。
「大丈夫?」
「……っ」
あわててしゃがんだ。と同時に、耳元で声が聞こえた。
拾おうとしたコインケースを、わたしとは別の手が拾い上げる。
大きな手。すらりとした、長い指。反射的に、顔を上げてしまって。