どんな風に、傷つけようとしてくるだろう。

美和と対面してしまったら、わたしは……。


「……っ」


脳裏をよぎった、揺れるポニーテール。

黒い気持ちが、穴を見つけたといわんばかりにぶわっとふき出す。


全部、美和のせい。

わたしが文化祭を楽しめないのも、怖い思いをしなければならないのも、空き教室に身を隠すしかないのも、全部。


ひどい、許せない。

その思いのままに顔がひどい形にゆがんでしまっていたのに気づき、わたしはあわててかぶりを振る。

そうして頭に残るポニーテールの映像を無理やり追い払いながら、目星をつけていた空き教室に、身をすべり込ませた。


がらんどうという言葉がぴったりの、机もイスもない空間。


「ふー……」


フェイスタオルを床に敷いて座り、わたしは安堵の息をついた。


とりあえず、居場所を確保できてよかった。

息を吐ききったあと、カバンの中から、一冊の文庫本を取り出す。


【きみに好きと言わない】というタイトルの本。今日一日を乗り切るための、大切なお供だ。

この本は、少し前に一度読んだことがあって。先日近所の図書館に行ったときに見つけて、再読したいなと思って借りてきていた。


内容は、高校生男女の純愛。

逃れられない離別の運命に立たされたふたりは、最後の思い出にと海を見に行く。

切ない感情と海の美しい描写が相互作用を起こしていて、気がついたら熱い涙がこぼれていて。


……だから。