ほかにも思い出す。とくにイベント事でもない、何気ない朝の出来事。
下駄箱で靴を履き替えていたら、突然だれかにバッと目隠しされた。
『なに!?だれ!?』とワタワタしていたら、手が外れて。振り返るとそこには、いたずらっぽく笑う美和がいた。
『可愛い美和ちゃんでしたー!』
『も……もー!すっごいびっくりした!』
『あはは!朝の眠気飛んでったでしょー!』
おどけた声と揺れるポニーテールが、鼓膜から、網膜から、離れない。
……美和のことが好きだった。大好きだった。
目を開ける。ゆっくり大きく、これ以上吸えないくらいに息を吸って、わたしはスマホを手に取った。
指をタップして、メッセージアプリを立ち上げる。
アプリ内には、もう消してしまって、美和のアカウントは残っていない。
でも頭に刻まれたIDは、消えていなかった。
美和の名前と誕生日を並べたもので、覚えやすいがゆえに、忘れることができなかったんだ。
頭に浮かぶローマ字の名前と誕生日の数字を、ID検索に打ち込む。