またなにがあるかわからないから、悠長にしてられなくて……と、乾いた笑いを見せる雨夜くん。
すごくすごく、疲れていることが伝わってくる。涙が両目のきわまで押し寄せて、あふれそうになった。
ねえ、雨夜くん。お母さんのことで傷ついて、黒い気持ちにさいなまれて。
そんな中、おばあさんのことで重大な決心をして。身を削って昼夜働いて……いったい、どれだけしんどかった?
もしわたしが、手術代をポンと出せるようなお金持ちだったら。わたしが、ものすごく有能な医者だったら。
そんなどうしようもない仮定が、頭の中にたくさん浮かぶ。
そんなもしもは気休めにもならなくて、どんな言葉を返したらいいかわからない。
そうしてもどかしい無言を連ねているうち。雨夜くんがハッと、なにかに気づいた表情になった。
「もしかして……永田さん、あれ以降も図書室で待っててくれてた……?」
そんなこと予想だにしなかった、というような声。
とまどいながらうなずくと、雨夜くんの眉が下がり、端正なつくりの顔が申し訳なさそうにゆがんだ。
「……ごめん、永田さん。俺……勝手に、もう永田さんに見限られたと思ってた。あんな最低な、傷つけるようなこと言って……確実に嫌われたって。だから、図書室で待っててくれることもないって……」
「雨夜くん……」
「……ごめん。今だって、合わせる顔ないって思ってる」