明るい声も顔も見せかけで、本当はとても緊張していることを表すようなふるえ。


……あ。

それを見た瞬間。わたしの世界は、ぐらりと揺れた。


思い出す。六月十五日。中学二年生の、無視がはじまったあの日。

とてもつらくて、悲しくて。呼吸をするのもしんどくて。でもなんとか立て直して、家に帰って。


そのときも、わたしはお母さんに、同じ質問をされたんだった。


『なにかあったー?』


そう、すごく軽い感じで聞かれたんだ。


当時のわたしは、お母さんの顔を見ずに『別になにも』と誤魔化したけれど。

でももしかして、あのときも。本当はお母さんは、すごく緊張していたのだろうか。


わたしになにかあったって気づきながら、無理して明るく振る舞うことで、わたしが話しやすいようにしてくれていた?


視線の先には、笑顔を作ってわたしの言葉を待っているお母さんの姿。


……なにもないって、言わなきゃ。


お母さんを目の前に、わたしは自分に言い聞かせる。

ずっと、そうしてきたんだから。別になにもって。明るく言わなきゃ。