雨夜くん。雨夜くん。休学なんて、どうして?
もう会えないの?もう、一緒に話せることはないの……?
雨夜くんの優しい笑顔を思い浮かべて苦しくなったそのとき、床でカランと音がした。
手の力が抜けて、持っていたお箸を落としてしまったみたいだ。
「あ……」
すぐに体が動かない。
床に転がったおはしをぼうっと見つめていると、お母さんがサッと席を立って、わたしの代わりに拾い上げてくれた。
「はい」
床にしゃがんだ状態で、わたしに手渡す。
「あ……ありが……」
「温美」
聞き慣れたお母さんの声が、わたしの鼓膜を揺らす。
「……なにかあった?」
その言葉にハッとして、お母さんを見る。
家に帰ってからずっと見ていたのに、今はじめて、ちゃんと意識をもって見た気がする。
お母さんの声は軽かったし、視線の先にあったのは明るい表情だった。
……でも。
「……っ」
でもお母さんのくちびるは、ほんの少し。パッと見ではわからないくらいわずかに、ふるえていた。