気持ちの準備はできていなかった。まったく。

でも習慣って怖いものだ。

中二のときからずっと続けていたクセで、いつわりの笑みは、わたしの顔に勝手に浮かんでいた。


促されるままに手を洗って、食卓につく。

食卓に並んでいるのは、大きな鮭フライ。お母さんの作る鮭フライは、サクサクした食感がおいしくて好きだ。


でも今日に限っては、どうしようかと思うほど、食欲がまったくわいてこない。


「「いただきます」」


ふたり向かい合って手を合わせ、夕食の時間がはじまる。


「温美、聞いてくれるー? 今日部長がね……」


お母さんが口を尖らせながら、仕事の愚痴らしき話をしている。

相づちを打つけれど、全然頭に入ってこない。顔ではへらへらと笑うけれど、本当は泣いてしまいたかった。


……雨夜くん。

心の中で呼びかける。