本の世界に入り込んで、現実から逃げなきゃ。
そう思っていたのに、本は一冊も開けなかった。
そうしてなにをするでもないまま、結局今日も、夜間の予鈴直前の時間を迎えてしまう。
……やっぱり、雨夜くんは来なかった。
沈んだ気持ちでカバンを肩にかけたわたしは、力の入り切らない足で、ドアの前に移動した。
ドアノブを握って押し開ける。すると向こう側で、「〜わっ!?」と驚きの声があがった。
わたしが出ようとしたタイミングで、ちょうど入って来ようとしていた人がいたみたいだ。
「あ、ご、ごめんなさーー」
ドアの向こうをのぞきながら謝りかけて、わたしはハッと目を見開いた。
そこにいたのは、明山くんだった。
雨夜くんの友達の、金髪の夜間生。明山くんも目を丸くして、そして「おお!」とはずんだ声を上げた。
「涼の彼女じゃーん! 永田さん、だっけ?」
「あ……」
「超偶然! 俺ここ、はじめて来るんだよー! 昨日担任のハゲに、お前は読解力がなさすぎるから図書室で本借りてこいって命令されてさー! ひでーよなー!」