「……っ!」


ある一冊を見て、わたしは息を詰めた。

薄緑色の背表紙。この間、図書館でめぐり会ったものと同じだ。


……なんだ。図書室にも、あったんだ。

わたしが最後まで読み切れなかった本。終盤に、〝美和〟が出てくる話。


トン、と。体の力が抜けて、わたしは後方にある書架に、もたれかかってしまっていた。


……悔しい、なあ。


そのままずるずる、垂直に落ちてしゃがみ込む。


悔しい。苦しいなあ。何度薄めても隠しても、こうして簡単に戻ってくるんだ。

必死で逃げて、でもなにかの拍子に、一瞬で過去に連れ戻される。


これからもそうなのだろうか。

逃げて逃げて、逃げて。それでも、逃げきれないのかな。


大きなひび割れに、その場しのぎでペンキを塗っても、見えなくなるのは一瞬だけ。

ひび割れはなくならず、かえってその存在を意識してしまうだけ。


藪内さんのおだやかなほほえみが、脳裏によみがえる。


ーー許すことは、自分を救うこと。

あれからずっと、定期的にわたしの中に浮かび上がってくる言葉。