本の匂いが立ち込める空間には、図書委員とわたしのふたりだけだ。

もうひとり男子生徒がいたのだけれど、さっき席を立って出ていった。


じきに図書委員もいなくなる。

わたしひとりになって……きっと今日もひとりのまま、ここを後にすることになるんだ。


雨夜くんに会う方法は、ここで来てくれるのを待つだけじゃないことはわかっている。

家の場所は知っているし、極論、校門で待ち伏せすれば会える。


でも無理やりそんな行動に出たところで、事態が好転するとは思えなかった。

だって雨夜くんから会いに来ないということはつまり、避けられているということ。必要とされていないということだ。


頼るだけ頼って、勝手に理想像を押しつけて。

雨夜くんが隠しておきたかった負の感情を、引っ張り出してしまった自分。


今となっては、わたしは雨夜くんを傷つけるだけの存在なのかもしれない。

わたしの「気にしてないよ」なんて言葉は、きっと求められていない。