人はみんな、思っていることを全部表に出すわけじゃない。


ためらって口に出さない言葉、代わりに口をつく、気持ちとは真反対の言葉。

本心を隠して作る笑顔。裏腹な行動。


多かれ少なかれ、みんなそうだ。

だれもがなにかを抱えて、それを見せないように日々を過ごしている。


怒りながら、泣きながら、恨みながら……必死に、笑っているんだ。



「永田っさーん!」


六時間目が体育だった、今日。

着替え終えて、最後に制服のリボンを整えていたところ、矢崎さんに急に呼ばれた。


「~はっ、はい!」


思わずピンと姿勢を正すと、矢崎さんの片眉が上がる。


「いや、軍隊か」

「ご、ごめ……あの、どうしたの?」

「あー今日さ、このあと暇? ドーナツ食べ放題やりだした店があるんだけど、人数多い方が値段安くなるんだよね。行かない?」

「え……!」


意図せずパアッと、瞳を輝かせてしまう。

ドーナツ食べ放題って、なんて夢のような場所だろう。