自分より下だって思える人がそばにいたら、人間って、安心できるものだから。そっか。そういうわけか。
気持ちはとても沈んでいた。這い上がってこられない、海の底の底くらいに。
……でも。
そんな逆接が、遅れて自分の中に生まれる。
目の玉そのものが熱くなり、見慣れた部屋が、徐々にぼやけていく。
でも……わたしを落ち込ませているのは、雨夜くんがわたしを利用していたっていう、事実じゃないな。
ショックなのは、そこじゃなくて。わたしがショックで、怒っているのは……自分だ。自分に対してだ。
雨夜くんのことを、知りたいと思っていた。
全部受け止めたいとか、そんなカッコいい考えに酔って。でも実際には、知ろうとなんてできていなかった。
雨夜くんが抱えている苦しみに、ひとつも気づけていなかったんだ。
「……っ」
ふるえる息がこぼれる。
手放していた心が戻ってきて、途方もない悲しみと悔しさを連れてくる。
「ふ……っ」
わたしは、いったいなにを見ていたんだろう。
どうして雨夜くんが強くて完璧だと、思い込んでいたんだろう。