雨夜くんの姿がゆがむ。
わたしの目に涙の膜が貼っているせいか、本当に世界がゆがんでいるのか、もうわからない。
「永田さんに話したこと……ほんとは、嘘ばっかりなんだ」
ブレブレの世界に、雨夜くんが乾ききった言葉を落とす。
「う、そ……?」
「そう。俺は、全然母親のことを許してないし、憎くてしかたないと思ってる」
「……っ」
雨夜くんの家で、雨夜くんに抱きしめられながら聞いた言葉。
『俺ね……今となっては、ここに置いていってくれた母親に、逆に感謝してるくらいなんだ』
それとは真逆の内容を、同じ人である雨夜くんが、連ねていく。
「母親が俺を捨てたのは……俺が五歳のとき。突然、祖母だって人の家に連れて来られて、泊まることになって。朝起きたら、いなくなってた」
「……っ!」
「捨てられたってわかったときは、本当にショックで。でも日が経つにつれて……悲しい気持ちは、憎む気持ちに変わっていった。無責任な母親のことが憎くて、憎くて。だから……俺は、〝完璧であること〟を目指すようになったんだ」
「かん……ぺき……」
「うん。完璧で文句のつけようがない人間になれば、母親を見返すことができるから。お前なんかいないほうが立派に育ったんだって、捨てたのはこっちのほうだって……思えるようになるから」