くしゃっと髪をつかんで、苦しげに吐き出す雨夜くん。

こんな雨夜くん……見たことない。


なんとかしなきゃ、と思った。なにか、言わなきゃ。なにか。なにを。

なにも浮かばないまま、わたしは必死に、なけなしの言葉をしぼり出す。


「そ……そんなこと、ない……っ」


声がふるえてしまう。

しっかりしなきゃと思えば思うほど、うまく舌が回らなくなる。


「こ……怖くない……! 怖いとか、そんな……あ、雨夜くんが怒るのは、当然のことだし……! えと、その……わたしなんかが当然とか、そんなこと言える立場じゃないんだけど……でも、雨夜くんはすごく優しい人だよ……! 怖くなんかない、優しくて、思いやりがあって、完璧で、本当にーー」

「――違う」


わたしがしどろもどろになってつないでいた言葉を、雨夜くんが遮った。

いつもいつも、わたしのつたなくて遅い言葉を待ってくれていた雨夜くんが。


今……はじめて。


「……違うよ、永田さん」

「……っ」

「優しくなんかない。俺……永田さんが思ってくれてるような、人間じゃないよ」