雨夜くんが、自分のほうにぐっと腕を引いて、おばあさんの手から逃れる。


「だれが……会う気に、なるっていうの。そんな、勝手極まりない人に」

「……涼」

「ふざけんな……」


雨夜くんの口から、普段なら絶対発さないであろう言葉がこぼれた。

能面だった顔が、動く。


いつものやわらかさは微塵もない……くしゃくしゃの、悲痛なかたちに。


「~ふざけるのも、いい加減にしろよ……っ!」


吐き出された、感情任せの言葉。ひどく顔をゆがませて、雨夜くんは荒々しく病室を出ていってしまった。


十数秒間の出来事に、放心した。なにが起きたのか、理解するのに時間がかかった。

でも、このままにしちゃいけないとだけは思って。


「……っ、雨夜くん……!」


わたしは数秒遅れて、病室を出て雨夜くんを追いかけた。


廊下にはもう、雨夜くんの姿はなかった。

あせってキョロキョロしながら歩いていると、ちょうど出入口の自動ドアを出ていく背中が見えて。